3年生引退、新生陵南記念の打ち上げのパーティー終了後。



もう夜遅いから、と帰った部員もいたが、越野たちは残っていた。
目的は1つ。

花火。





花火と、答え。

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バケツに水を入れる。
プラスチックの水色のバケツが、どんどん重たくなっていく。
色も、バケツの横から見ると水色から下から上へ青っぽく変化していく。
勢い良く入れたから、水面がゆらゆらしていて。
ちゃぷちゃぷ、水があたってはねる音がする。

どうせレギュラーしか残らないだろうと選手の人数分しか花火を買ってこなかったけれど、一人、控えの奴が残っていた。


彦一。要チェックだか何だか知らないけど、顔には「花火大好き」って書いてあるみたいだった。

なので、皆から少しずつ花火を分けてやった。
場所的に打ち上げ花火は出来ないから地味だけど、思い出になるだろうから。
用意してきたろうそくに火をつけて、恐る恐る花火の先端を火のほうに持っていく。

まず、魚住さんの花火から、しゅわっと火のついた音がした。
オレンジ色っぽい色の火。
魚住さんがちょっと動かすと、余韻を残すようにその方向へ揺れ動いていく。

正直、魚住さんに花火はどうかと思ったけど、本人は楽しそうだから、良いことにしておく。

続いて、池上さんの。
池上さんが火をつけた花火は色変わり花火で、緑や黄色、赤などに変化していく。
軽くくるくる回してみると、色が変わった時がとてもキレイで。


終わった時の儚さが、とても虚しい。

でも、まだまだ花火はある。
植草や福田も花火の先端に火を近づけて、じゅわっと言う音とともにキレイな光が飛び散っていく。
「植草、ここから火もらっていい?」
ろうそくよりこっちの方が早い。
植草の花火に俺の花火を近づける。
しゅっ、と、緑色の火花が散る。
やっぱりいつ見てもキレイだ。子供の時も、夏は花火だと決まっていた。

仙道も火をつけて、くるくる回していた。

…似合わなかった。


高校生で似合うやつがおかしい。と、思う。


   が。

彦一が恐ろしく似合っていたので、口には出さないでおいた。
さて、俺もそろそろ火をつけようか。

俺が火をつけたのは、線香花火の大きい感じな花火で、わりと長く光っていた。
次から次へと、音もしないで火花が散る。
キレイだと思う。

でも、何か、儚く思う。


特に終わった時のふっ、と暗くなった瞬間は


とても、言い様もなく、悲しい気分になる。



「…越野にそういう雰囲気、似合わないかも。」
植草が、いつの間にか隣りに座っていた。
「何だよ、似合わないとか」
自分でもいつもと違う気がした。
普段なら、彦一達と混ざって花火を振り回しながら大騒ぎしているんだろう。

でも、そういう気分じゃない。


「魚住さんも池上さんも引退かー…」

そういう時期なんだ。
受験。3年生。引退。負けたらそこで終わり。
全国に行きたい。それだけを目標に頑張ってきたのに。

「仙道が部長って何か不安」

口ではそういってるけど、内心そうは思っていないことを植草は知っている。
「それを副部長の越野が何とかしなきゃならないんだろ?」

越野は副部長になった。なったというか、いつの間にか。


植草にやらせたかったけど、「向いてない」って断られたし。
俺だって向いてないっつーの。
特に部長が仙道だったら、副部長だろうがなんだろうが今と大して変化がなさそうだ。
強力なセンターが必要だろうなあ。魚住さんの抜けた穴は大きいだろうし。
池上さんがいないと不安だなあ。湘北は点をがんがん取りに来るタイプだし。


「…冬、どこまで行けるかな?」

俺らしくないなあ。やっぱり今日は、何か変だ、俺。

「これからは俺たちが陵南のバスケ部を引っ張っていくんだろ?越野は適任だよ、副部長。」
気休めにしか聞こえない。
これから、部員達を引っ張っていくのは俺たちの代なんだ。


3年生はそれほど大きい存在だったんだ。

いつも、後輩より前を走って。
引っ張っていったり、試練を与えたり。

時には、厳しく叱ったり。

先輩達がいたから、陵南はここまで来れている。



今度は、自分達の番。




越野は、ばっと顔を上げた。

「よし!」
自分の中で、何かふっ切れた感じがした。
気分が軽くなる。
好きだ、この瞬間。

「植草、ありがとな!」

植草はちょっと驚いたような顔をしてから、ふわっと笑った。
「ふっ切れたみたいで良かったな。…これからがんばろ?」

「当たり前!!」




周りで花火をやっている姿を見ている。

魚住さんと池上さんは、最後だから思い切り楽しもうって感じで、とても嬉しそうだった。
…先輩も、俺と同じようなことを考えたんだろうか?
その時はどうしたんだろう?

この答えは、毎年違う人がぐるぐる考えていて、それぞれ違うんだろうな。

ふと、後ろを振り返ってみる。

影でぱちぱち線香花火をやっている福田が、妙に面白かった。
「福田、ちまちま線香花火とかやってんじゃねえよ!暗すぎ!!」
福田がちょっと反応した瞬間、線香花火の火がぽとっと落ちた。
「…もう少しだったのに…」
「…わりぃ。」
福田は、また火をつけてぱちぱち光っている線香花火を見ていた。

「線香花火、最後まで落とさずに終わらせると、願いが叶うらしい。」

もしかして、そんな事を真面目に信じているのだろうか。
「何を願ってたんだ?」
ぱちぱち、線香花火は光っている。
「陵南の全国行き。」

「それは、願うんじゃなくて自分でやり遂げるものでしょ。」
どこかから、仙道がひょこっと顔を出した。
「今年は行くよ、陵南。俺がキャプテンだし。」
なんだその妙な自信。
「お前がキャプテンだからどこか頼りないんだよ。」
試合中は、そんな事ないけど。
「キャプテン一人じゃ頼りないなら、越野という副キャプテンがいるじゃん。」

けろっと、そういう事を言うものだから。

「当然だろ、ばーか。」

こういう返事をしてしまう。



きっと、彦一の代も、その次も。

似たような悩み事をして、何かをきっかけに、ふっ切って。
その繰り返しのうちに、大切なものを掴んで強くなっていく。



俺も一回り、強くなった気がした。




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誕生日祝いに有耶無耶の椛葵さんから頂きました!


本当に素敵な小説を作ってくださってすごく嬉しいです!!
植草のかわいさといったらもう…!越野さんと植草の会話がイイ!
福ちゃんの線香花火姿やハイテンションな彦一も浮かんできます。
魚住さんと池上さんという、今まで支えてくれた存在がいなくなる
切なさと、花火が消えるときの儚さが見事に表現されていて
読んでいて じーんときました。なんていい小説なんだ…(つД`)・゜・
椛さん、本当にありがとうございました!!